近代都市パリの誕生---鉄道・メトロ時代の熱狂 (河出ブックス)

パリの駅の歴史を知りたくてこの本に行きあいました。読んでビックリ。著者は東大土木出身ながらフランスの土木専門大学院エコール・ナショナル・デ・ポンゼショッセで博士号を得たという稀に見る経歴の持ち主で、この本で2010年にサントリー学術賞を得ていました。建築の世界でエコーデボザールなどへ留学した人には何人にも出会いましたが、著者も言うとおり、なんで土木で？と思う人が多いでしょう。しかしフランス革命を経て近代国家に生まれ変わる過程で鉄道・橋梁の技術は何にもまして統治者にとって重要なツールだったのです。我が国でも国土交通省においては土木が建築の上に立つ伝統が今に残っています。それはともかく、パリを中心とした土木側から見た近代史は、これまで一度も知らなかった世界に読者を導いてくれること必定です。これまで何気なく見ていたパリのインフラの生々しい生成史は全く新しい都市の見方を教えてくれます。先日読んだセーヌ川の治水の歴史の本が日本人女性により初めて書かれフランス人を驚かしたように、この本もフランス人に高く評価されることを望みます。フランスの土木の世界でジェネラリスト・エンジニアの伝統があり、特定分野の技術者であるスペシャリスト・エンジニアとは別に広い分野にわたる教養と知見を活かして総合的な政策課題などに取り組んでいると言います。