私たちが食べる動物の命と心

この手の議論の対象は、必ず動物だけです。植物にも目を向け、タイトルを「生きものたちの～」にしないのは何故でしょうか？植物は、肉以上に食事の中心にあります。まず私たちの植物食について熟考しましょう。植物は光や温度を感じて芽を出し、水分の多寡を感じて気孔を開閉し、日長の変化を感じて花を咲かせます。確かな命と感覚をもつ植物たちを私たちがどう扱っているのか、考えを巡らせましょう。麦、米、豆、トウモロコシ、おびただしい数の植物の赤ん坊たちが、生きたまま乾燥室に放り込まれています。全身をすり潰されています。人参、キャベツ、ジャガイモが、生きたまま全身を切り刻まれています。熱湯で茹でられています。冷蔵庫の中でゆっくりとゆっくりと体を乾かされています。生きるために生きものの命を奪うことに抵抗があるのなら、炭水化物やたんぱく質に類する物質を無機物から工業的に合成し、それらを粉末や錠剤として、あるいは点滴で摂取すれば良いのです。食事という行為は単に生命を維持するための物質の摂取と化しますが、生きものたちの命には代えられません。倫理的な姿勢とは、彼らの命を奪わないこと、それしかありません。尤もらしい理屈をこねくり回し、「命を頂きます」などと感謝の意を表したところで、生きものたちにとってはどうでも良いことです。重要な点は、命を奪われるのか否か、その1点です。さて私の体験では、著者のような人々は私の話をほとんど聞いてくれません。「バカバカしい」と言われたこともあります。いや、実はそうなのです。その言葉は、動物に妙な同情を抱く人に向けて返ってくるブーメランです。私に投げつけた言葉を省みて、彼らには自分の主張のバカバカしさに気づいてほしい。そして、なぜこんな考えをもつに至ったかを問うてほしい。「おなかがいっぱいになったから」だと思います。食べるために必死だった昔の人類（わずか100年前の日本人ですらきっと）と違い、いかにも飽食の時代の先進国の人間の考えそうなことです。腹が満たされた人間の考えは不自然かつ滑稽です。しかし、この著者も含め世の中には私の話に耳を傾けてくれる人がいるかもしれません。皆さん、植物も含めすべての生きもののことを考えて下さい。そして、行きつく先を深く深く深く想像して下さい。食料生産が農業から工業的合成に移行すれば、それは狩猟・採集から農耕への移行した時と同様に、人々の生活を大きく変えるでしょう。猟師という職業がほぼなくなったように、農業や漁業はなくなります。農地、牧場、養殖場、灌漑施設は野生生物が豊かな生態系に戻ります。農具、漁船、食器、調理道具、食器用洗剤、冷蔵庫、台所は不要になります。それらを生産するメーカーも消滅します。外食産業も不要になります。そして「生きものを食べるなんて、畜生ケダモノ同然だ」という考えが常識になるでしょう。そこまで行きついた時、ようやく「生態学的に」健全な生活が現実になります。こんな話をバカバカしいと感じるのなら、あるいは、そこまで突き詰める気がないのなら、「動物の命」を語ることは中途半端な自己満足、やめたほうが良いと思います。